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コラム

炭素循環革命:製鉄産業の未来を切り開くTokyo Tech GXIの挑戦

GX-グリーントランスフォーメーション-GX技術開発カーボンニュートラル

炭素循環革命:製鉄産業の未来を切り開くTokyo Tech GXIの挑戦

Tokyo Tech GXI副統括、教授 小林 能直

東工大グリーン・トランスフォーメーション・イニシアティブ(Tokyo Tech GXI)は、持続可能な未来を築くための重要な取り組みの一環として、製鉄産業における革新的なアプローチを推進しています。製鉄は、その大量の二酸化炭素排出(CO2)により環境への負荷が大きく、地球温暖化の原因の一つとされています。製鉄プロセスでは、鉄鉱石を還元するために石炭やコークスなどの炭素源を使用し、これによって大量の二酸化炭素が排出されます。1トンの鉄を製造するのに約2トンのCO2の排出が伴います。そのため、日本のCO2総排出量の約14%を占めており、製鉄産業の二酸化炭素削減は喫緊の課題です。この課題に対処するために、GXIは製鉄プロセスの再設計や二酸化炭素の再利用技術の開発に取り組んでいます。

製鉄プロセスにおける二酸化炭素排出の削減は、炭素循環の観点からも重要です。CO2の大気中への放出は、地球温暖化の原因となるだけでなく、地球の炭素循環にも影響を与えます。地球上のCO2は植物や海洋などの炭素吸収源と相互作用し、炭素の循環を促進します。しかし、製鉄プロセスからの大量のCO2排出はこの循環を乱し、地球環境への負荷を増大させます。そのため、炭素循環を考慮したCO2の削減が重要とされています。

GXIが提案する製鉄プロセスの中心となるのは、iACRES(Active Carbon Recycling Energy System)に基づく製鉄システムです(図1)。このシステムでは、一酸化炭素(CO)や水素(H2)を利用して鉄を得るプロセスを採用し、従来の製鉄プロセスで不可避だったCO2排出を大幅に削減します。具体的には、固体の鉄鉱石や溶融酸化鉄含有スラグをCOやH2で還元することで鉄を得ることができます。さらに、このプロセスで副次的に生成される二酸化炭素や水を再生可能エネルギーや原子力エネルギーなどのゼロカーボンエネルギーでCOやH2に戻し再利用することで、カーボンニュートラルな製鉄を実現します。

このような革新的なアプローチは、製鉄業界が持続可能な方向に向かうための鍵となります。製鉄プロセスにおける炭素循環を実現し、CO2の排出を大幅に削減することで、持続可能な製鉄産業の実現を目指します。また、GXIは製鉄プロセスだけでなく、さまざまな産業分野における環境負荷の削減にも取り組んでいます。これらの取り組みが成功すれば、地球環境への負荷を大幅に軽減し、持続可能な社会の実現に大きく貢献することが期待されます。

GXIの取り組みは、製鉄産業における持続可能な技術の開発にとどまらず、その成果は他の産業分野にも波及する可能性があります。地球温暖化や環境汚染といった課題に対する解決策を提供することで、GXIは持続可能な社会の実現に向けた重要な役割を果たしています。今後も、GXIの取り組みがさらに進展し、地球環境に貢献する革新的な技術や手法が生まれることを確信しています。

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