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コラム

地球温暖化の解決をめざして:新しいCO2回収・再利用技術の研究開発

GX-グリーントランスフォーメーション-GX技術開発カーボンニュートラル

地球温暖化の解決をめざして:新しいCO2回収・再利用技術の研究開発

東京工業大学 准教授 原田琢也

“地球温暖化”、この言葉をテレビのニュースなどでもよく耳にするようになって久しくなりました。地球の平均気温が上がり、南極や北極の氷床が解け、海面が上昇し、激甚な台風や熱波に頻繁に襲われるようになる。そのような地球規模の深刻な気候変動が進みつつあることが、世界中の多くの調査や分析により明らかとなっています。この温暖化の原因物質が、私たち人類が大気中に大量に放出している二酸化炭素(CO2)です。CO2を多く含んだ大気は、まるでビニールハウスのように太陽の熱をためこみ、その結果として地球全体の温度が上がる訳です。

当然ながら、この地球温暖化の進行を食い止めるには、大気中のCO2を低減することが不可欠です。その技術アプローチには大きく2つのアプローチがあります。一つは、太陽光や風力といった再生可能エネルギー、原子力などのカーボンフリーエネルギーの活用であり、もう一つが化石燃料の消費により排出されるCO2の回収・再利用技術です。後者の技術は、特にCCS(Carbon Capture and Storage)やCCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)と呼ばれ、その技術確立が大いに期待されています。

私たちの研究室では、東工大グリーン・トランスフォーメーション・イニシアティブ(Tokyo Tech GXI)の活動の一つとして、このCO2回収・再利用技術に着目した研究を進めています。そしてその中で、特に、“溶融酸化物”というユニークな材料を用いた新しいCO2回収システムの開発を行ってきました(図1)。酸化物は陶器やガラスなど、固体の状態をとるものが一般的ですが、これを加熱して溶融し、液体の状態としたものが溶融酸化物です。

私たちは、この溶融酸化物の中から、特に優れたCO反応性と高い熱安定性を有する材料を開発し、それを新たなCO吸収剤として利用することで、工場や火力発電所から排出される高温の燃焼ガスから直接CO2を回収することが出来るシステムを実現しました。この新しい高温-液体型のCO2回収システムは、COとの反応にともなって生じる大きな熱エネルギーを高効率に電気エネルギーへと変換(つまり“発電”)することも可能とし、その結果、プロセスの消費エネルギーの大幅な削減につながりました。このようなCO2の回収と熱回収発電を同時に行うことは、従来の低温で動作するCO吸収剤や、熱伝導性の低い固体型のCO吸収剤では実現不可能なことでした。

回収されたCOの再利用も重要な技術課題です。私たちはこのCOを石油に代わる新たなカーボン資源として、ポリマーや化学燃料など、様々な化成品合成の原料として再利用することも検討しております。私たちが新たに開発した溶融酸化物を用いたCO回収法は、回収後のCO2を容易に高純度化して取り出すことができ、このCOの変換・再利用の観点からも大きな技術的優位性をもっています。

地球温暖化の問題は、まさに現代を生きる私たちに突き付けられた地球規模の大きな課題です。でも私たちが多くの知恵をしぼり、そして一丸なって大いに努力を続けることで、必ず解決することが出来ると私は信じています。東工大GXIにおけるCO2回収技術の研究を通じ、多くのパートナーの皆様とともに、その歩みを加速させていきたいと思っております。

図1 新しい溶融酸化物型CO2吸収剤の概念図と特性

研究者紹介ページ 原田研究室サイト