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コラム

カーボンニュートラルを見据えた二酸化炭素の電気化学的変換技術

GX-グリーントランスフォーメーション-GX技術開発カーボンニュートラル

カーボンニュートラルを見据えた二酸化炭素の電気化学的変換技術

東京工業大学 科学技術創成研究院 ゼロカーボンエネルギー研究所
准教授 髙須大輝

地球温暖化や増加する世界規模での異常気象等への危機感から、カーボンニュートラル実現の動きが近年世界的に加速しており、既に年限付きのカーボンニュートラル実現を表明している国や地域は150以上(2022年10月段階)に及んでいる[1]。カーボンニュートラルという価値観が共有されていく中で、新たに必要とされる技術も数多く現れている。
例えば、再生可能エネルギーの導入拡大が進んだことで、不安定ながら枯渇の心配がない安価なエネルギーとしての利用が可能となった。これにより、高価な電気エネルギーの利用おいては少しでも非効率的な手法は容認できないとする従来的な考え方から、部分的な形であってもエネルギーの再利用が可能な技術を導入していくことで捨てられる余剰エネルギーの有効活用に繋がるとの考えにシフトしつつある。

一例として、日本では国内最大級の水の電気分解(以下、電解)による水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」が2020年に開所している[2]。エネルギー保存則からも明らかなように、水の電解による水素製造において投入エネルギーに対して製造された水素から取り出せるエネルギーは減少する(変換ロスのみで約2割減)。そのため、水電解は本質的には無駄にエネルギーを失う余計なプロセスである。しかし、再生可能エネルギー導入拡大に伴い余剰エネルギーの廃棄が発生する状況下では、捨てているエネルギーを貯蔵し、時空間を超えて再利用できる有効な選択肢となっている。

さて、未だ実用化にむけた研究開発の余地が残されているものの、将来的に有望な技術候補として二酸化炭素(CO2)の電解に当研究室は着目している。カーボンニュートラルにおいてはCO2をはじめとした温室効果ガスの排出を全体で実質ゼロにすることを目標としており、炭素の利用が現実的にゼロにできない産業や移動体に対しては、ネガティブエミッション技術を用いて相殺することが対応案として現在検討されている。
一方で、炭素はエネルギーとしての利用の他にも、身の回りの物質としてもありとあらゆるものに利用されており、炭素の利用自体は将来的にも継続されることが予想される。従って、炭素の最終排出だけに着目するだけでは、本質的な持続可能社会を構築することはできない。そのため、炭素の供給についても考慮する必要がある。CO2電解は供給および排出する炭素量を平準化することが可能である。まさにここで必要とされる技術であると言える。いずれの利用形態においても炭素は多くの場合CO2として最終的に排出される。すなわち、炭素を再利用していくためには、化学的に安定している、このCO2に対して何らかのエネルギー投入を行い、よりエネルギー状態の高い物質に変換することが必要である。例えば、CO2から付加価値の高い一酸化炭素やギ酸等の物質に変換することで、化学製品や化石燃料のクリーンな原料として再利用することが可能となる。CO2の変換技術候補は様々考えられるが、エネルギーの質が高く、電圧や電流制御によって容易に供給エネルギー量が制御可能な電気エネルギーを利用するCO2電解は、実産業界や社会が求める大規模CO2変換に対して速度的にも対応が期待できる有望な技術と考えられる。

研究室では、特に高いエネルギー効率を達成可能な固体酸化物形電解セル(SOEC)の大規模化を見据えたセル開発に現在取り組んでいる(図1)。具体的に、開発中のセルは金属細線メッシュを支持体として利用し、溶射法により反応層を導入した独自構造を有する金属支持SOEC(図2)である[3]。金属を支持体として用いることで、既存技術において課題とされるセルの大面積(大容量)化や低コスト化に加え、運転起動時の高速化等も期待できる。実際に、研究室では2cm直径のコイン型セルを製造し、CO2高温電気分解の原理実証を報告[3]しており、現在セルの高性能化[4]や耐久性向上、セルの大容量化に取組んでいる。GXI大岡山ラボにおいても10cm角クラスの大型セル評価システムを導入しており、GXI活動の一環で、本研究の参画企業への公開イベントでの紹介や研究進捗も報告していく予定である。

 

Figure 1 Basic reaction overview of CO2 electrolysis using SOEC

Figure 2 A conceptual diagram and microscope SEM image illustrating the cross-sectional structure of the metal-supported solid oxide electrolysis cell (SOEC) under development in the laboratory

 

Reference

[1] The Ministry of Economy, Trade and Industry of Japan, The Annual Report on Energy, June 6, 2023
https://www.meti.go.jp/english/press/2023/0606_003.html
[2] The New Energy and Industrial Technology Development Organization (NEDO),
The world’s largest-class hydrogen production, Fukushima Hydrogen Energy Research Field (FH2R) now is completed at Namie town in Fukushima., March 7, 2020 (accessed on 2024/02/20)
https://www.nedo.go.jp/english/news/AA5en_100422.html
[3] Y. Numata, K. Nakajima, H. Takasu, Y. Kato, Carbon Dioxide Reduction on a Metal-Supported Solid Oxide Electrolysis Cell, ISIJ International, 59, 4, 628-633, 2019
[4] H. Takasu, Y. Maruyama, Y. Kato, Development of Metal Supported SOEC for Carbon Recycling Iron Making System, ISIJ International, 60, 12, 2870-2875, 2020

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