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コラム

グリーントランスフォーメーションを担うエネルギーシステムの構築に向けて

GX-グリーントランスフォーメーション-GX技術開発カーボンニュートラル

グリーントランスフォーメーションを担うエネルギーシステムの構築に向けて

東京工業大学 ゼロカーボンエネルギー研究所
教授 大友順一郎

 

低炭素から脱炭素に至る道のりはどこまで到達しただろうか?グローバルな気候変動問題は、単なるエネルギー・環境問題を超えて産業構造を変革する段階に到達しつつある。一方、国際社会では世界の平均気温の上昇を産業革命以前と比較して1.5度に抑える努力目標を掲げているが、その目標を達成できるか現時点で定かではない。しかし、様々な障害がありつつも、世界全体は大きな潮流に沿って進んでいる。カーボンニュートラル(CN)に対する日本国内の取り組みもこの10年で著しく活発化しており、本学Tokyo Tech GXIは、グリーントランスフォーメーション(GX)研究の拠点として企業と大学の接点となる重要な役割を担っている。
気候変動問題に対する対策は、エネルギーを輸入に頼っている日本にとっては変革の大きな好機である。エネルギーコストの低減や安全保障の観点からも価値創造の好機といえる。一昔前であれば、太陽電池は非常に高コストな発電デバイスの代名詞であったが、この10年でその状況は大きく変わり、世界規模で低コストな主要電源に生まれ変わっている。新エネルギー導入のための送電網の配備や蓄電を含む統合的なコストは上昇するが、従来の常識から大きく変わり、多様な新しいエネルギー源を取り込みつつ社会全体が変わっていく潮流に変化はない。
以上のエネルギーを取り巻く大きな潮流を考えると、エネルギー変換システムの基礎研究に加え、社会導入までを見据えた研究・連携活動を進めることは重要なアプローチになる。将来のエネルギー変換技術のイノベーションを考えると、エネルギー変換過程に関わる化学反応や材料開発、それらの新しい基礎的な知見に基づいたエネルギーシステムの設計や統合化により新技術を社会導入する道筋を示すことが益々重要になっている。図1に示すように、エネルギー/社会変革に対する4つの層(材料/反応プロセス、デバイス/システム、エネルギーネットワーク、社会)を設計パラメータで橋渡しすることで統合的な視点や将来のビジョンの提供ができると考えている。我々はコストエンジニアリングと称し、水素製造、燃料電池、電解合成などのエネルギーデバイス/システムの技術経済性分析と新しいシステムの設計と評価を行っている[1,2]。

図1エネルギー/社会変革に対する4つの層と統合的視点・ビジョンの提供

GX研究の要点を以下にまとめる。
・新エネルギーと物質循環についての基礎研究の推進
・材料・反応・システムまでミクロ現象からマクロシステムまでをつないだ一連の評価
・技術と経済の融合的な視点から将来のエネルギーシステムについてのアプローチ
・基礎研究から技術進化・社会導入まで幅広い視点でのエネルギーシステムの探求

個別のGX要素技術研究として、1)高効率燃料電池・電解セルの開発[3]、2)電気化学促進効果による電解合成[4]、3)炭素循環を支える化学ループ法[5]、さらに上述した4)コストエンジニアリングによる技術経済性分析、以上の4つの分野の研究を進めている。

 

図2 GX基礎研究 (a)高効率プロトン伝導セラミック燃料電池; (b) 電気化学促進効果によるアンモニア等の電解合成; (c) 炭素循環利用化学ループ法

コストエンジニアリングによる技術経済性分析の事例として、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の解析例を示す[6]。材料物性からデバイス、システム設計までを行うことで、将来の技術革新を踏まえた発電コストの算出を進めることで、従来の系統電力コストに到達する技術開発の道筋を示している。

図3 SOFCのコストエンジニアリング

さらに、Tokyo Tech GXI 実験棟(大岡山ラボ)では三塔型炭素循環利用化学ループ法の循環媒体である鉄系金属酸化物キャリア粒子開発と反応器設計の研究を進めている[7]。(1)還元塔でバイオマスなどの含炭素燃料からキャリア粒子の還元反応と共に二酸化炭素を分離、(2)水素生成塔で還元したキャリアと水蒸気を反応させることで純水素を生成、(3)部分酸化したキャリア粒子を空気で完全酸化させることで熱を取り出し発電に利用。このプロセスをポリジェネレーションと称し、産学官連携による実機の設計に向けた研究を展開している。

 

図4 三塔型ポリジェネレーション化学ループシステム

GXを推進する上で、技術と社会を結びつけるシナリオを描き、社会導入に際する技術的課題を明示することが必要である。現状では技術イノベーションを担う研究者と社会イノベーションを担う研究者との距離が大きいと感じている。産学官連携と進めるとともに、自然科学と工学、さらに社会科学の実効的な連携が今こそ問われている。

参考文献
[1] Shun Yamate and Junichiro Otomo
Energy Conversion and Management, 301 (2024) 118016.
DOI: https://doi.org/10.1016/j.enconman.2023.118016
[2] Taihei Yamamura, Taisuke Nakanishi, Jihan Lee, Shun Yamate, Junichiro Otomo
Energy & Fuels, 36(17) (2022) 9745.
DOI information: https://doi.org/10.1021/acs.energyfuels.2c00910
[3] Julián A. Ortiz-Corrales, Hiroki Matsuo, and Junichiro Otomo
Journal of The Electrochemical Society, 170 (2023).
DOI: https://iopscience.iop.org/article/10.1149/1945-7111/ad1631
[4] M. Okazaki and J. Otomo
ACS Omega, 8(43) (2023) 40299
DOI information: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsomega.3c04478
[5] Shu Hikima, Martin Keller, Hiroki Matsuo, Yoshio Matsuzaki, Junichiro Otomo
Chemical Engineering Journal, 417 (2021) 128012.
https://doi.org/10.1016/j.cej.2020.128012
[6] Junichiro Otomo, Junya Oishi, Kenya Miyazaki, Shintaro Okamura and Koichi Yamada
International Journal of Hydrogen Energy, 42 (30), (2017) 19190.
http://dx.doi.org/10.1016/j.ijhydene.2017.06.031
[7] Junichiro Otomo
Journal of the Japan Petroleum Institute, 60(1) (2022) 1.
DOI information: https://doi.org/10.1627/jpi.65.1

研究者紹介 大友研研究室サイト