東京科学大学総合研究院 ゼロカーボンエネルギー研究所 准教授 長谷川 純
レーザーを使って物質を瞬時に蒸発させる「レーザーアブレーション」。この技術は、SF映画のような印象を与えるかもしれませんが、実際には私たちの生活や産業に深く根付いています。医療分野での視力回復手術、自動車製造のレーザー加工、さらには半導体製造の最新技術にも活用されています。
さらに、レーザーの強度を高めることで、レーザーアブレーションからプラズマを作り出すことができます。この「レーザーアブレーションプラズマ(Laser Ablation Drift Plasma、LADP)」は、非常に高密度かつ高温のプラズマで、ある特定の方向に集団で運動する特徴を持ちます。この特性を応用することで、イオン注入や成膜技術に新しい可能性が広がります。
- グリーントランスフォーメーションとプラズマ技術の融合
現在、世界中で「グリーントランスフォーメーション(GX)」が求められています。GXとは、環境負荷を軽減しつつ、持続可能な社会に向けた産業や技術の転換を指します。エネルギー効率の改善や資源の最適化は、GXの中核をなす課題です。私たちは、このレーザーアブレーションプラズマ(LADP)を利用した新しい表面改質技術が、GXの実現に貢献できると考えています。
具体的には、プラズマイオン注入・成膜技術(Plasma-Based Ion Implantation and Deposition、PBIID)にLADPを応用することで、表面処理の精度と効率を飛躍的に向上させることを目指しています。この技術は、金型や機械部品の耐摩耗性を高めるだけでなく、部品の寿命を延ばし、摩耗や劣化による廃棄を減らすことが可能です。これにより、製造プロセス全体でのエネルギー消費や資源使用を抑制し、GXに向けた持続可能な生産システムの構築に貢献します。
- 高効率・低エネルギーの次世代製造技術
LADPを応用することで、プラズマイオン注入技術は従来の方法よりも低エネルギーで効率的に実行できます。例えば、複雑な形状を持つ部品に対しても、選択的かつ局所的にイオン注入や成膜を行うことができ、無駄なエネルギーや材料を削減することができます。この技術革新は、機械部品の摩耗や劣化を防ぐことで、長寿命な製品の生産につながり、結果的に資源の節約とエネルギーの削減を実現します。
さらに、表面処理技術の進化により、製造業全体のエネルギー効率が向上し、廃棄物の削減や製品寿命の延長が期待できます。これは、製造プロセスの持続可能性を高めると同時に、地球環境への負荷を軽減し、GXの実現を後押しするものです。
私たちの研究室では、このような省エネルギーで環境負荷の少ない技術を開発することで、未来の持続可能な社会に貢献したいと考えています。学生たちとともに、自由な発想で日々新しい技術の可能性を追求し、GXに向けた道筋を切り拓いていきます。